新世紀エヴァンゲリオンSS論

                                                                            Written by史燕

はじめに

 1997年劇場版新世紀エヴァンゲリオン「Air/まごころを君に」放映後、ネット上にはエヴァのSSを掲載するサイトが数多く表れては消えていった。

今回は、そもそもSSとは何なのか、なぜ生まれ、そして多様化していったのかを探りたいと思う。



1、SSの源流

 エヴァにおけるSSの原点は、旧版上映後のある種の作品に対する絶望にあるといえる。
ただし、間違ってもこれは作中に絶望が描かれているということではない。
なお、作品には様々な解釈があり、「絶望が描かれている」という意見を否定する気はなく、
「この場合対象にする、エヴァオタによる作品(もしくは制作側)への絶望は描かれていない」という意味であり、
詳しい作品解釈について本稿で触れるつもりはないということを注記しておく。

旧劇場版の観賞後、おそらく、多くの人間が視聴後に一瞬言葉を失い、その後は人によって、様々な反応を示したことと思う。
「いっ、いったい何なんだこれは」「理解できない」「わけわっかんないよもう」といったある種の自暴自棄。
「えっ、これで終わりなの」「嘘だろ」といった驚愕。
「こんなのってないよ」「これはエヴァじゃない」「認めない、絶対に認めないぞ」といった作品の否定。
そして何より、「この後どうなったんだ」「これで終わらせていいのか」という疑問を抱いたと思う。

ちなみ、エヴァの解釈に対して「作品として、エヴァそれ自体は完結している」という主張があると思う。
しかし、そもそも題材としてSSを扱うため、ここでは取り上げないが、否定するつもりはない。

こういった様々な思いの中から、
「これでいいのか、いや良くないはずだ」
「私の解釈はこう・・だ」
「ここの設定はきっとこうに違いない」
「公式が書かないなら、私自身が書いて見せる」
といった、各人の様々な思いが小説という形になったものが、SSまたはFFと呼ばれる一連の作品群である。

SS関連サイトは創作・掲示・投稿・検索サイトなど各種のものをあわせると、1990年代後半に社会現象を巻き起こし、
数千を超えたと言われる新世紀エヴァンゲリオン関連サイトの中でも、ある一定以上の割合・地位を占めていた。

次稿では、こういったSSと呼ばれる作品群自体について解説を行いたいと思う。



2、SSとは

2―T、SSサイトの変遷

 エヴァSSサイトの勃興・乱立・変遷に関しては‘05年からSSを読みだした私には正確に把握することはできない。
ただし、’95年のTV版放映開始直後・放映中から存在したと確認されたものは極少数のサイトである。

ちなみに、私が当時存在したと確認できたサイトは一つのみである。
しかもそのサイトはすでに閉鎖したサイトの、さらにその年表において記載されていただけであるので、正確には把握できなかった。
その後’97年の旧劇場版公開後に乱立し、一時は数千ものサイトが存在したともいわれるが、現在はそのほとんどが閉鎖・更新停止となっている。



2―U、SSとは何か

 SSとはShort  StoryおよびSide Storyの略である。
またSSをFF(Fan Fiction)と表記する場合もある。
むしろ後者の方が実態を端的に言い表しているかもしれないが、SSとは私たちオタクどもの妄想の産物である。

故に、設定・言い回し等で
「……なんか違う」「これはエヴァじゃない……」
という批判は、論点がずれているとしか言いようはなく……
要するに
「そんなに言うならお前の満足するもん書いてみせんかい」
ということなのである。

くどいようだが、作品ごとに解釈が異なるからこそ作品の多様性・独自性が生まれるのであり、
他者の価値観を否定して自身の価値観を押し付けようというのはナンセンスだ。
「だったら作品で語れ」ということである。




2―V、SSの諸類型

@アフターEOE
 アフターEOEものと呼ばれるものは要するに本編終了後の後日譚について描いたものである。
EOEもの、アフターものとも呼ばれるが、基本的には平和な日常を描くことが多く、そこでチルドレンたちの恋愛や交友関係等を語る形になる。
例えば、誰に子供たちがそれぞれ引き取られていったのか、学校は再開したのか、政治状況はどうなったのかを考察しつつ、日常を妄想するのである。

 私個人としては、何か時系列に関する説明等がない限り、日常が描かれている作品はアフターEOEものだと判断するようにしている。


A本編再構成・本編分岐
 本編再構成もの、あるいは本編分岐ものと呼ばれるものは、その名の通り本編の最初から、もしくは途中のターニングポイントだと思われる時点から内容を改変し、
結末をより良いもの―厳密には作者がそう思っているもの―へともっていこうという作品である。

とある古参のSS作家がある新人の作家へ向けて、雑談用の掲示板で
「本編再構成は地獄だぞ」
と、言い切った例が如実に表しているが、徹底的に設定に準拠し、設定の穴を突いて構想を組み立てなければならないため、かなり難しい分野であり、
書き手に相当の技量が求められるジャンルである。


B逆行
 逆行ものというのは、本編終了後のキャラクター―といってもほとんどが碇シンジだが―が本編開始時やそれ以前の時系列へと何らかの力で時間軸を逆行してしまったという設定の作品のこと。
使徒化、サードインパクトのエネルギー等様々な理由づけがなされている。

注意すべき点は、逆行したキャラによってどのような影響があるかを慎重に考えなければならない。
また、逆行したキャラにも慎重に行動させないと物語の進行に矛盾点が生じやすくなる。
ご都合主義すぎる作品は、読み手にとってつまらなくなってしまう点も留意しなければならない。


C学園
 学園ものと呼ばれるSSには、二つの種類がある。
一つは本編そのままに、2−Aを題材にしたもの。
もう一つはTV版26話で描写された学校生活から派生したものである。

後者の設定は、アスカがシンジの幼馴染で、明るい性格のレイがクラスに転校してくるというものだ。想像しにくければ、『碇シンジ育成計画』をイメージしてほしい。
ここで描かれる事の多い、TV版26話に準拠した綾波レイのことは特別に「リナレイ」と呼称される。
 なお、「リナレイ」とは林原めぐみ氏がCVを務めた『スレイヤーズ』の「リナ・インバース」と性格が似ていることからエヴァオタがつけた呼称である。
 描かれるのはチルドレンたちの学校生活であり、ラブコメテイストになるものが多い。一般に学園ものという時には後者の設定を用いられることが多い。


Dオリ主・憑依
 SSにおいては作者が自由に動かせるオリジナルキャラクターを登場させ、自身を投影し、自身の思いを代弁させようとする作品は多い。
その中でオリキャラを主人公として扱い、行動させる作品がオリ主ものである。

 オリ主ものとは別の形で、主人公を自身の思う通りに行動させようとするもう一つの形が、憑依ものと呼ばれるジャンルである。
「朝起きたら碇シンジになっていた」「気が付いたら碇シンジだった」という設定から始まるもので、まさしく作者=キャラクターといっていいものである。

 どちらも世界観を壊さずに、設定に矛盾点がないように話をつなげていかなければならないのが、注意すべき点だろう。
蛇足として付け加えると、憑依ものの作品数は史燕が確認した限りでは、他のジャンルに比べて非常に少ない。


Eスパシン
 スパシンというのは「スーパーシンジ君」の略である。
本編のシンジが持っていなかった能力―ここでいう能力は身体能力・使徒としての力などその種類はさまざまである―を身に着けた、本編と異なる、周りに流されるだけでない碇シンジを描こうとするものである。
これは、上記の諸類型とは別の要素であるため、「本編再構成・スパシン」「スパシン逆行もの」といった形で、併記されることが多い。




3、SSの変容―断罪―

  断罪ものとは、ネルフの大人たちに対して、圧倒的な力を持った碇シンジ(もしくはチルドレンたちの場合も)が、その罪に対して、復讐を行うというもの。
レイやアスカが断罪の対象となる作品も多いわけではないが存在する。

 断罪対象としてまず槍玉にあがるのが、葛城ミサト・碇ゲンドウの二人である。
断罪される原因は(私が勝手にまとめたものだが)以下に述べよう。

・葛城ミサト…いわゆる「葛城無能論」。
        作中でも家事ができない女性として描かれているが、それ以上に多い批判は、「軍人として無能」(作戦中の行動全般に対する評価)
        「引き取っといて放置とか何がしたいのか」(保護者としていかがなものか)といったものが主。

・碇ゲンドウ…「鬼畜」「外道」「それでも親か」「嫁と会いたいからって全人類と総心中とか自分勝手も程がある」など。
        とはいえ、彼をきれいに描こうとする作品も少なくなく、また、個人的には難易度が高いと考えており、良作も少なくないように思える。

 端的にまとめると、「碇君かわいそう」ということである。
両者に対するこれらの意見だが、言いたいことはわかるが考察が甘いように感じる作品も多い。
賛否両論といえるジャンルである。

 さて、章題には「変容」と載せたが、エヴァSSサイト自体が低調な今、新しく現れたというのではない。
また、作品群の初見も2000年代前半に見られるため、さほど新しいというわけでもない。
といっても、第1章で述べたように旧劇放映直後に登場したわけでもないので、比較的新しいともいえるだろう。

 では、何が他のジャンルより新しいのかというと、作品群が増加した時期である。
特に、‘00年代中葉には(厳密なスタートはわからない)、「スパシン逆行断罪もの」という作品系統が多く表れた。

断罪ものの性質上、
@ネルフの、もしくは断罪対象者の闇の部分を知っている。
A断罪を遂行する能力がある。
という二つの条件がそろっていなければならないので、「逆行」で闇の部分を知り、「断罪」を行うという形で、この作品群が結合し、乱立したものと思われる。
……といっても、すでに過去の事となりつつあるが。

 そもそも「変容」と題したが、既存のジャンルを淘汰したわけでなく、一時その勢いは他の類型を押しのけようとするほどだったが、現在は併存している状態である。
 結論として言えば、この作品群を読む・書く際は原作の描写をよく思い出しながら行ってほしい。
私個人としてはこの作品群に関しては、否定はしないが、断罪物であっても最終的にすべての登場人物が幸せになってほしいといつも作品を読む際には思っている。



おわりに

 新世紀エヴァンゲリオンSSは現在低調となっており、このまま終息を迎えるのか、それとも新劇場版が新たな起爆剤となるのかは現状では見えてこない。
とりあえず、SSの諸類型について、主なものは一通り概説することができた。
もっとも、反論・指摘されるべき点は多々あるとは重々承知している。

 私は、第3章でも述べたが、すべての登場人物が最終的に幸せになってほしいと願いを込めてSSを書き、読んでいる。
これは、あくまで史燕という名の一人のクソ野郎の意見であり、だれもこの意見を受け入れる必要はない。

 願わくば、SSを読む際に「こんなこと言ってたバカなエヴァオタが前いたなー」程度に心のどこかで思っていただければこの上ない幸いである。




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