エヴァンゲリオンSS論

               渚カヲルの出世街道

                                            Written by史燕


 新劇場版第3作である「エヴァンゲリヲン新劇場版Q」の放映から数ヶ月たち、世間ではエヴァ熱が収まりつつある今日この頃である。

 映画の中身自体には賛否両論というか、ネット上では批判が多いのであるが、新劇否定派の方々も含めて古参・中堅のエヴァオタにとってみれば
「まあこんなもんじゃない? 庵野だし」
といったところか。

 私個人はリアルタイムで旧劇を見た世代ではないが、「そこまで叩くものじゃないな」「シンでどう落としどころを見つけるかな」との考えであり、
「完結したら新劇で書こう」「ていうか設定の穴が多いからSS作家歓喜じゃね」と思っているところ。

 私の感想はここまでにして、何故今更Qの話なのかというと、あの作品を見た誰もが感じる
「あれ?これって主人公:渚カヲルがヒロイン:碇シンジを攻略していく話じゃない?」という印象に端を発する。

 私は生粋のアヤナミストなので腐ったお姉さま方とは嗜好が異なるし、背景に真っ赤なバラが咲く作品は全く読んだことがない人間なのだが、BL云々は別として、不覚にもこの感想を抱いてしまった。

 さて2013年現在のエヴァSS(同人)で一番勢いのある勢力とは、カヲシン・シンカヲという表記が独特の碇シンジと渚カヲルのカップリングである。
腐女子の時代がここに到来したと言っても過言ではない、といっても旧劇直後から渚カヲルのBLネタは存在していた。

「シンジ君、君は好意に値するね」
「えっ///」
「こんのバカシンジっ、さっさと行くわよ」「ホモは殲滅するの」
「グシャッ、バキッ」
「だ、大丈夫?」
「ほら、さっさと行くわよ」「碇君行きましょ」

ここまでが、かつてのSS界でのテンプレだったと言っても過言ではない。

作品内における正規カップリングとしては、やや新しいものと考えていいものかもしれない。
2000年代に入ってから、ネット上でBLネタが見られるようになってくることと関連性が指摘できるが、そこまで厳密に関係性を確定できない。
一つ言えることは、現在はBLネタがある程度受け入れられているため、表面化してきたものであり、GAINAXとしては、どう考えているのかは不明だが、商業的にもそういった層を狙っているものも増加しているのは確実である。

渚カヲルの元々の設定を、以下に整理してみよう。

・ゼーレが直接送り込んできた、フィフスチルドレン。
・弐号機に乗れなくなったアスカの代わり。
・実は第17使徒タブリス。
・第1使徒アダムの魂を持っている。

 新劇では「第1使徒アダムスの生き残り」という設定の他、様々な伏線があるが現状では何も語れない。

 エヴァ関連サイトにおいては、LAS(ラブラブ・アスカ・シンジの略。以下同様に説明)・LRS(ラブラブ・レイ・シンジ)という二大カップリング(どちらが優勢かというカップリング論争が未だに行われている)に加え、二人とものLARS が主流であった。
さらに、LMS(Mは葛城ミサトであったり、伊吹マヤだったり、霧島マナであったり、山岸マユミであったりとさまざま)、LHS(ラブラブ・ヒカリ・シンジ)やオリキャラとの組み合わせが存在する。

 かつてSSサーチサイトの大手であった「エヴァンゲリオンファンフィクションファイブ(EF5)(http://yotsuba.saiin.net/~ef5/index.htm)」ではLAS・LRSを中心に上記のカップリング系のサイトが数多く登録されており、カヲシンものという区分は存在しなかった。
しかし、私のサイトも登録させていただいているサーチサイトである「エヴァサーチ(http://eva.x0.com/eva/eps.htm)」の登録サイトは、LASサイトは44件でLRSサイトは12件であるのに対して、カヲル×シンジのカップリングサイトは240件も登録されている。

 数々の名言・迷言によってエヴァオタから愛され続け、SSでは動かしやすいキャラとして大活躍をし、とうとう映画一本の主人公になってしまったカヲル君であるが、もともとは第24話「最後のシ者」に登場しただけである。
今回の主人公並の活躍に、SS各作品における彼の扱いが影響を与えている、などという戯言を言うつもりはないが、私たちエヴァオタから愛され続けているキャラクターであるというのは、紛うことなき事実だ。
彼自身のSSにおける活躍をあくまで一例としてパターン化し、類別したものであるが、以下に紹介してみたいと思う。

・学園もの及びアフターEOEの世界、もしくは逆行ものや本編再構成もので本編の時系列が無事終了した際――つまり日常パート――においては、鈴原トウジや相田ケンスケと共に、碇シンジの大親友であり、みんなでバカをやりながら楽しく過ごしている。
・ラブコメテイストの作品では、ネタキャラとして前述のようないじられ役としてとてもおいしい位置におり、作者としても非常に助かる存在。
・逆行ものでは、すべてを知り、シンジを過去へ送り出す役目やシンジを導く役目を果たしている。
・SSで一般に使われる設定としては、元々の神話におけるタブリスに則って、「自由を司る天使」という性質を与えられることも多い。
・スパシンもの、断罪物や他の類型であっても暴走したりしたシンジを教え諭したり、真理に気付かせたりする役割を担うこともある。
・一方で、ラスボスとして登場したり、レイやアスカ、時にはシンジを精神的に傷つけ、追い込むような役割を担当することもある。
・カップリングにおいてはカヲシン・シンカヲのほか、LAK(ラブラブ・アスカ・カヲル)やLRK(ラブラブ・レイ・カヲル)といった組み合わせがある。
 こういったカップリングにはシンジはLRS/LASであることが多いため、それぞれ「余り者同士の組み合わせ」という批判がある。
 しかし、史燕個人としては、SS書きの皆さんの中には「LAKこそ至高」「カヲル君とレイとくっついて幸せになるべき」と本気で考えている人々の作品を拝見したことがあるので、「余り者同士」という風に安直に批判することは認められないと考えている。

以上、新劇主人公という渚カヲルの大出世を端緒に、彼の出世街道とSSにおける役割について概説した。
そもそも、たった2クールの作品が社会現象になったのがエヴァという作品であるが、たった1話から映画の主人公という大出世をしたカヲル君は、ある意味アニメ界の出世頭と言っても過言ではないだろう。


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