零と壱の物語〜Aパート〜

                 Written by史燕

チクタク チクタク 振り子は揺れる
チクタク チクタク 鼓動ははしる

少女の手には1つの時計があった。
銀色の蓋に白い文字盤、揺れる振り子に回る秒針。
胸元に収まる懐中時計。

彼を送り出して、赤い世界で一人佇む。
揺れる振り子を見つめながら。
思い浮かぶのは彼の笑顔。
思いを寄せるのは彼の幸福。

崩れゆくこの世界から、彼はよりよい未来へと歩き始めた。
この世界の、エヴァンゲリオンの記憶など、全て白紙に戻して。

「だから、いいの」
「これで、いいの」

彼女の独白を聞く者はなく。
チクタクと揺れる振り子だけが、赤い世界に響き渡る。
文字盤を通じて思い起こすのは、かつての愛しき日々。
彼と一緒にいれたこと。
最後に彼の笑顔を見れたこと。
それで十分、これで十分。

spini anim praya あの日々を忘れたりしない
spini anim praya 私がヒトである証明だから


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