零と壱の物語〜Gパート〜

                Written by史燕

チクタク チクタク 歯車回す
チクタク チクタク 零の世界を変える壱を刻む

記憶に浮かぶ景色を頼りに、少年は歩き始める。
まずは電車で箱根まで。
そこからは芦ノ湖、二子山と足を伸ばす。
手がかりなんて、おぼろげで、それでも止めない時計の歯車。

揺れる鼓動と揺れる振り子。
零の世界と壱の世界。
赤い世界と青い世界。
彼女を探して、彼女を求めて。

確証はないが確信はあった。
彼女に逢うにはこれしかないと。

常識的な自分が言う、あれはただの幻だと。
良識的な自分が言う、お前はきっと疲れているのだと。

そんなことなど知ったことじゃあない。
彼女に、綾波レイに逢うためならば、常識も、良識も、もはやお呼びではなかった。
狂人結構、強靱決行。
正気で彼女が救えるか。
良識が何の手伝いになる。

彼女を見捨てた保身など捨ててしまえ。
彼女を拒絶したこの世界など用なしだ。

仮にこの壱の世界で彼女が生きられぬと言うのなら。
仮にこの青い世界が彼女拒むというのなら。
こんな世界、こちらから願い下げだ。

記憶に寄ればジオフロントへの入り口があった場所。
そこには、深い深い穴が広がっていた。
深淵へと誘うかのように口を開けるその穴は、落ちればおそらく命はない。
この先に、少女がいる保証はない。
しかし、他にあの世界へと続きそうな心当たりもなかった。
場所は奇しくもあの戦いの戦場。
この場所で自分は為す術もなく囚われ、謎の儀式が遂行され、世界は赤い世界へと変わった。

「行くしかない」

シンジは覚悟を決めるように宣言すると、深淵へと身を躍らせた。

揺れる振り子と金の時計。
時を刻むのは相も変わらず。
歯車を回す銀の時計。
共に刻むは同じ時。

spini anim praya 振り子と鳴り響く
spini anim praya 世界を渡る声




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