零と壱の物語〜Fパート〜

                Written by史燕


チクタク チクタク ひとり奏でる
チクタク チクタク 明日への歌を


少年の前に、赤い海が広がっていた。
赤い海に佇む少女とその手を握る少年自身。

「ありがとう、碇君。あなたのおかげで、零は壱になれた」

少年の目の前の少女が、微笑みながら言った。
自分はもうこれで十分なのだと、満足なのだと伝えるように。

「綾波、ぼくはみんなが溶け合った世界より、完全無欠の零の世界より、たくさんの壱がそれぞれ自分の足で立つ世界を選ぶよ」

少年は少女に答えた。
すべて知ったうえで、すべて理解したうえで。

――やめろ、やめるんだ。

声を上げる。わかっている、届きはしないことは。

――お願いだ、頼むからきみも一緒に。

少年の声は、空気を震わせることなく、ただただ虚空へと消えた。
少女はその声を知ってか知らずか、微笑みながら少年の背を押す。

“あなたはその世界で幸せに”

言外に、そこには自分の居場所はないのだと伝えながら。
彼女はこのまま、赤い世界に取り残されるのだと示しながら。

「あやなみっ」

そう叫び上体を起こした。
ここはベッドの上、どうやら相当夢見が悪かったらしい。
しかし、悪夢の中でやっと見つけた。
ずっと、もやがかかったまま、判然としなかったその正体を。

「綾波、そこに居たんだね」

これからどうすればいいかわからない。
なにができるのかわからない。
それでも、探し求めていた尋ね人が、声だけしか手がかりのなかった少女が、あの赤い世界に居ることがわかった。

spini anim praya 私への道標
spini anim praya 壱を育む言葉



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