想い人~Bパート~
Written by 史燕
(……どうしてなの)
レイは、自室で一つの写真を手に取りながらうつむいていた。
(……どうしてなの)
その写真ではかつてのNERVメンバー、レイたちチルドレン、葛城ミサト・赤木リツコらスタッフ、果ては冬月コウゾウや碇ゲンドウの姿まであった。
NERV解体の際、最後に全員そろって撮った集合写真である。
レイはその写真の中のある人物――碇シンジをじっと見つめていた。
(……どうしてなの)
――ほかのみんなとも仲良くしないとね――
高校入学直後、彼がそう言ったから、ぎこちないながらもヒカリに助けられながら多くの友人を持つようになった。
”そうすれば彼が喜んでくれると思ったから”
(……どうしてなの)
そのおかげかいつしか自分の周りには多くの人々が常に集まるようになった。
噂では彼女の親衛隊なるものまで存在するらしい。
相変わらずの無表情ではあるが、それも個性として受け入れられている。
ケンスケたちによれば自分と親しい人間はみな声色から心情を感じ取ることができるらしい。
(……どうしてなの)
しかし、である。少女が一番近くにいてほしかった彼は、これからも自分と一緒に輪の中にいてくれると疑いもしなかった少年は、気が付けば自分とはとても近づけないほど遠くにいた。
――今となっては、言葉を交わすことさえままならない。
(……どうしてなの)
少女が気付いたときにはもう遅かった。
慌てて近づこうとしても拒絶され、話しかけてもあたたかい反応は返ってこない。
最近では彼女の周りで彼を悪く言わないのはヒカリ・トウジ・ケンスケの三人ぐらいである。
(……どうしてなの)
――あんな奴放って置けばいいのに
――綾波さんは優しいのね
――全く、せっかく綾波さんが話しかけてあげてるのに
――身の程を知るべきなのよ
(……どうしてなの)
わかってはいる、彼女たちは何も知らないだけなのだと。
だとしても、何故彼が離れてしまったのか自分でもわからない。
何が悪かったのか、それを訪ねる機会もない。
トウジたちも働きかけてくれてはいるが、状況は変わらない。
変えてほしいところがあれば、彼のためならいくらでも変わることができるのに……。
(……どうしてなの)
今日もまた、彼に冷たくあしらわれた。
”どいてくれる”……何という皮肉だろう、これはかつて自分が彼に冷たく投げつけた言葉ではないか。
(……どうしてなの)
自分が人間ではないからだろうか。
しかし、かつて彼は自分もヒトだと言ってくれたのに。
その時「その話は、誰に対しても、もう二度とするんじゃない」と言った彼の目は、静かな怒りと、溢れ出さんばかりの哀しみに満ち満ちていた。
(……どうしてなの)
自分だけは知っている、彼の目は、今もあの時と同じであるということを。
(……どうしてなの)
今の自分には、かつて手にしていなかった多くのものがある。
(……それでも、私が欲しいのは)
彼女が一番欲しいものは、かつてしっかりとその手の内にあったものは――
(“いかりくん”)
気弱で、人一倍繊細な、とても優しい少年の、“ココロ”。
ただ、それだけだった。
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