Written by史燕
チクタク チクタク 刻むたび生まれる
チクタク チクタク 悠久に描く物語
「やっと見つけた」
赤い世界に降り立った少年は、狙いを違わず少女の前へ。
深淵へと飛び込んだ一か八かの賭けは、少年の全取りで勝利をその手に。
「はじめまして、は違うね。ひさしぶり、綾波」
「碇君、どうしてあなたが。覚えていない筈なのに、そもそもどうやってここへ」
「君に逢うために、少しだけ無茶をね」
「そんな、あっさりと」
事情も理屈も飲み込めぬまま、ただ目の前に少年がいる、恋い焦がれた彼がいる。
それだけで少女の頭はパンクしそうだった。
だが忘れてはいけない。
世の男性という生物は、惚れた女性のためならどんな無茶だってやってのけるということを。
「きみに、逢いたかったから」
「それだけ?」
「それだけで、十分だから」
「そんな、碇君には、あの世界で幸せに生きていてほしかったのに」
「きみがいないのに?」
「私が、居ない方がいいと思ったから」
「そんなわけ、ないじゃないか」
「きみをここに置き去りにして、幸せになんてなれるわけない」
シンジの言葉は、万感の想いの籠もった、混じり気の無い、真意であった。
「もう会うつもりは無かった。会えなくても平気だったはずなのに」
「だけど、あなたに逢えて、こんなにもうれしい」
レイも、この期に及んではぐらかすことはせず、ことここに至り、純粋な気持ちを言の葉に乗せる。
想いを交わして、言葉を交わして、二人の間に響くのは、チクタク、チクタク、振り子の音。
二つで一つ、同じ時を刻む金銀一対の懐中時計。
それをお互いに取り出して掌で広げる。
――SHINJI IKARI
――REI AYANAMI
一対の時計が並び、二人の名前が立ち現れる。
「行こうよ、一緒に」
「いいの、私と一緒で」
「ぼくが一緒に生きたいんだ、きみの隣で」
「私も、あなたの隣で歩いて行きたい」
二人が望み、赤い世界は音を立てて崩れ始める。
崩れた先には、少年が来た青い世界。
少年と少女は手に手を取って歩き始める。
彼らが共に生きるために。
例え世界が隔てても、二人を分かつことはできないのだから。
こうして零の物語は完全に幕を下ろし、二人は揃って壱の物語へ。
しかし、零の物語も悲しいことばかりではなかった。
零の物語から壱の物語は生まれたのだから。
チクタク チクタク 金と銀の歯車は共に
チクタク チクタク 二人の鼓動は重なる
spini anim praya 忘れないで世界の
spini anim praya 共に生きる明日を