あなたを思えば
第八話
Written by史燕
「ええーっ。手で受け止める!?」
発令所にセカンドの声が響いた。
しかし、それは無理もないと思う。
今回、軌道上に出現した使徒に対応するために葛城三佐が立案した作戦は、落下してくる使徒をエヴァで受け止めるという、到底作戦とも言えないような内容だったから。
「使徒がコースを大きく外れたら……?」
「その時はアウト」
「機体が衝撃に耐えられなかったら?」
「その時もアウトね」
「これでうまく行ったら、まさに奇跡ね」
「奇跡ってのは、起こしてこそ初めて価値が出るものよ」
碇君やセカンドの懸念に、飄々と答える葛城三佐。
「この配置の根拠は?」
そう訊ねた私にも「勘よ」と端的に答えられてしまった。
それには二人も「勘!?」と私と同じ、いえ私以上に驚いていた。
「そう、女の勘」と断言した葛城三佐に釈然としない物は感じたけれど、他により良い配置を考えられる判断材料も無いことから、そのままの配置に従うことになった。
奇跡というものを当てにするのはどうかと思うけれど、N2航空爆雷をはじめ、軌道上での攻撃は一切効果が無かった以上、代案は存在しなかった。
遺書を書き残すか確認を取られたけど、三人目に移行してからのことがあるため、必要性を感じなかった。それに、サードインパクトが起こったら関係がないもの。
碇君とセカンドも同じく残さないみたい。
その後、葛城三佐が急に別の提案をした。
「すまないわね。終わったらみんなにステーキおごるから」
ステーキ。肉は食べないのだけど、今回は一緒に行ってもいいかもしれない。
できれば違う料理がいいのだけど、肉以外のメニューを頼めばいいのだもの。
****
結論から言えば、葛城三佐の勘は当たった。
初号機がギリギリ落下地点に間に合ったものの、A.T.フィールドを中和しただけで機体にかかる使徒の加重はそのまま。
質量を利用した運動エネルギーによる攻撃は単純なだけに有効なものだった。
物理的に押しつぶされそうになる初号機を助けに入った弐号機と零号機が力を合わせてようやく均衡させることができた。
隙を見てプログレッシブナイフを使徒に向ける余裕があったのは弐号機だけ。
それも紙一重の間隙を縫った形だった。
あと少し予想がずれていたらどうなったかわからない。
事後処理に際して南極にいた碇司令がわざわざ碇君に「よくやったな、シンジ」と声をかけていた。
碇君は嬉しそうだった。
ただ、碇司令の声色が私に向けるのと同じだったのが気になった。
あの、私ではない誰かに話をしているような声……。
それとは別に、私たちは葛城三佐にしっかりと夕食をごちそうになった。
セカンドの提案で、ステーキではなくラーメンということで私にとっても都合がよかった。
ニンニクラーメンチャーシュー抜き。
みんなで食べる料理、おいしかった。
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