あなたを思えば
第九話
Written by史燕
クリーニングルームを抜けて裸体でエントリープラグに入るのは初めてだった。
17回もの除菌を経てのテストというのは、過去にも経験がないほど徹底したものだ。
それがダミーシステムに関係するエヴァの起動データのデジタル化にあるのだから、仕方ないのかもしれない。
プラグスーツによるシンクロの補正は、逆を言えば生身でのシンクロよりもハーモニクスを低下させている可能性もある。
これは、碇ユイ博士や惣流・キョウコ・ツェッペリン博士のように、エヴァに取り込まれる危険性を少しでも下げようということから、意図している部分でもある。
シンクロとは、一体化を進めるということ。
私自身のA.T.フィールドを開放してエヴァと完全に一つになってしまう可能性がある。
逆に、今回はあくまで模擬体とのシンクロであることから、安全性は確保されていた。
「感覚がぼやける」「いつもと違う感じ」
セカンドも碇君も口々に感想を伝えている。
たしかに普段エヴァとシンクロしているのと比べると違和感を拭えない。
「レイ、右手を動かすイメージを送ってみて」
赤木博士の指示に合わせ、零号機とシンクロしたときのようにイメージを送る。
やはりイメージがぼやける。
それからしばらくデータ収集の試験を続けていると、俄かにスタッフが慌しくなった。
A.T.フィールドという単語まで聞こえた。
すると突如として、左腕に違和感と痛みが生じた。
無理矢理内側から動かされているような感じ。
苦痛に思わず悲鳴をあげてしまった。
痛みを堪えていると、いきなりエントリープラグが動きだした。
地底湖に射出されたらしい。
おかげで痛みからは解放されたけれど、一体何だったの。
そのまま数時間待機していた。
発令所からは連絡はない。
エントリープラグ同士の通信は生きているけど、裸体であることからプライバシー保護のため音声のみの回線だった。
裸体のまま外に出ようとすると、セカンドに静止された。
「恥じらいを持て」と言われても、このままいるわけにもいかないと思ったのに。
ただ碇君にも反対されて、大人しく三人で待機し続けた。
職員によって順番に救助されたときに、使徒の侵食があったのだとこっそり教えてもらった。
ただし存在は抹消済み。
私自身への影響を確認するため与えられた情報だった。
あれが、侵食。
なぜだかわからないけれど、侵食を受けたのが碇君じゃなくてよかったと思った。
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