再び巡る時の中で
「夕食」
Written by史燕
ヤシマ作戦から二週間以上の日々が過ぎ、シンジの両腕も完治していた。
今日の碇家ではシンジとレイが夕食を取っていた。
きっかけは、数日前のシンクロテスト終了後に、いきなりゲンドウの執務室へと呼ばれたことである。
「シンジ、俺ももうすぐ上がる。一緒に帰るぞ」
この申し出自体は、最近何度かあったことであり、父親と少しずつだが距離が縮んでいる証拠でもあるため、シンジもうれしく思っていた。
ところが、今回はそれだけではなかった。
「それと、今日はレイも一緒に帰るぞ」
どうやら拒否権はないようだ。
シンジはいきなり投下された爆弾に、頭が真っ白になった。
とはいえ、その日は結局夕飯を三人で食べただけであり、帰宅するレイをシンジが送り届けて終了となった。
その後は、テストの無い日もゲンドウが毎日レイを伴って帰宅し、とうとう今日はゲンドウ抜きでの夕食となったが、最近当たり前になってきているせいか二人ともそれを気にした様子はない。
「……碇君、そろそろ帰るわ」
「そう、それじゃあ送っていくよ」
二人で夜道を歩くのも、もはや日課となっていた。
「やっぱり遠いね、綾波の家」
「……そうかしら」
たしかにレイの部屋があるマンションは郊外にあるため、歩くと結構な距離もある。
だが、綾波は気にしていないようだ。
「いっそうちの近くに引っ越して来たら? あ、もちろん綾波にその気があればの話だけど」
シンジの何気ない提案に、レイは思った以上に揺れていた。
(……碇君の近くにいれば、もっと一緒にいられるかもしれない)
そう思うと、シンジの提案はとても魅力的に思えてきた。
「……私は、引っ越してもいいかもしれない」
レイがそう言うと、シンジの表情がパーっと明るくなった。
「それじゃあ、さっそく父さんに相談してみるよ」
こうしてシンジは、レイを送り届けた後もゲンドウの部屋に戻り、仕事を終えたゲンドウが帰宅するまでずっと待っていることにした。
「なんだシンジ、まだいたのか」
ゲンドウは帰宅してシンジに気付くとそう言った。
言い方が不愛想なため不機嫌そうに聞こえるが、これは自分の父親が不器用なためにうまく話せないだけだとシンジは知っていた。
「うん、今日は父さんに相談したいことがあるんだ」
「何だ、進路相談はまだ先のはずだが」
「いや、相談したいのは綾波のことなんだ」
レイのことと聞いて、さては仲が進展したか、それとも父親の助言を聞きたくなったのかと期待したゲンドウだったが、その期待は裏切られることとなる。
「実は、綾波をうちの隣に引っ越させたいんだけど……」
やっぱまずいかな、とだんだん言葉が尻すぼみになるシンジだった。
一方ゲンドウはというと
(たしかにこの階は空室しかない、ならば引っ越すのも問題ないか)
レイをあのマンションに済ませていたのは、地下の人工進化研究所と同じ環境を与えて安心させ、またダミーシステムの研究のため感情をあまり育ませないようにという理由はあったが、今となっては関係のない話だった。
(何より、シンジとの仲を進展させたいしな)
ユイ復活をあきらめたゲンドウは、変な親心をシンジに向けていた。
それが少し歪なものであると冬月は気づいているが、不器用なゲンドウなら仕方がないとあきらめていた。
(そうだ!!)
思考の海に沈むゲンドウに天啓のようなひらめきが走った。
「シンジ、レイが引っ越しのことについては、明日にでも来れるようすぐに手続きを行おう」
「ほんと!!」
シンジは喜色を表すが、ゲンドウがニヤリと笑っているのに少し警戒を抱く。
「ところでだ、どうせなら家具一式も新調させてやりたい」
「うん」
これ自体には、何もないレイの部屋を知っているシンジには異存はない。
「そこでだが、今度の休みにレイと買い物に行け。拒否権はない」
「えっ」
いきなりの提案にシンジは驚かざるを得ない。
「何だ、嫌なのか」
「別に、嫌ってことは無いけど」
「ならば問題ない、レイには私から伝えておく」
そういって、ゲンドウはシンジの様子を気にすることもなく、早速レイと総務部へと連絡を始めた。
こうしてシンジは、次の土曜日にレイと出かけることが決定したのだった。
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