再び巡る時の中で

                   「科学の限界」

                                         Written by史燕





その日はいつも通りシンジはレイとトウジ・ケンスケ・ヒカリと昼食をとっていた。
最初は「シンジとレイの邪魔をするのは悪いんじゃないかな」と遠慮していた三人だったが、「友達だよね」というシンジによるある種の脅迫と「……みんなで食べたほうがおいしいわ」というレイの哀願によりまず男二人が撃沈した。
さらにヒカリも「男ばかりの中に綾波一人っていうのは、ちょっとまずいと思うんだ」という正論(?)に敗れ、この五人で昼休みを過ごすのが日課となっていた。

その際トウジがうっかり

「センセも綾波も大変やな、今日も訓練なんやろ?」

という一言を漏らしたことにより、芋づる式にチルドレンであることがヒカリにもばれてしまった。
もっとも三人ともNERV職員を親に持つため、使徒戦の大変さを知っており、変に特別視せず、普通に友達づきあいしてくれるのがシンジとレイにはありがたいことだった。
特にレイは、シンジにはわからない「女の子というのはね」というヒカリ先生の有り難いお話と細々としたお節介に良い影響を受け、あまり積極的ではないものの、クラスの女性陣と仲良く話ができるようになってきている。
ヒカリにしてみれば「綾波さんって、少しずれているところがあって、心配なのよね」ということらしい。

そんないつもの昼休みが終わろうとしたとき、いきなりシンジの携帯に着信が入った。

「シンジ君、すまないが急いで本部まで来てほしいんだ」
「えっと、僕だけですか?」
「ああ、使徒じゃないんだ。君だけ来てくれればいい」

電話の相手はマコトだった。
この時期と、マコトからの連絡ということから(あのロボットか)と、シンジは当たりを付けた。

「ごめん、NERVからだった。先生に早退するって伝えておいて」
「わかったわ、綾波さんも?」
「いや、どうやら僕だけみたい。使徒じゃないんだって」
「戦闘じゃなくても呼ばれるのか」
「うーん、普通は無いんだけど、急に僕に用事が出来たみたいだったし、いってみないと分からないよ」
「ま、センセ、なんにせよ、お疲れさん」
「うん、みんな、また明日」

そう言い置くと、シンジは急いでNERVへ向かった。
相手は使徒ではない上、エヴァには全く脅威ではないが、原子炉を積んだ状態で暴走しているのだ。
しかも、その場にミサトやリツコがいるとなれば、焦らずにはいられなかった。


シンジは本部に着くと簡単に説明を受けた後、F型装備で急いで旧東京へ向かった。
ミサトとの打ち合わせは前回の通り、シンジがJAを止め、ミサトが乗り込む。
結末は知っているが、シンジとしてはやはり気が気でなかった。

「作戦開始、シンジ君、お願い」
「はい」

シンジは、JAの側に降り立つと、暴走するJAの周りをぐるっと囲むようにA.T.フィールドを展開した。

(前回は追いかけて捕まえて力ずくで止めたけど、たぶんこれで大丈夫なはず)

シンジの予想通り、JAはオレンジ色の壁に阻まれて身動きが取れないでいた。
そっと背後に回り込むと、右手に乗るミサトを乗り移らせ、活動停止が確認できるまでフィールドを維持し続けた。
ミサトが後に語ったところによると、前回と同じように、何者かの手でパスワードが書き換えられていて、すぐに自動的に活動停止したらしい。

一方その頃、JA完成記念式典会場では

「な、なんなんだあの壁は」

時田は、自分が心血を注いで作り上げたJAが手も足も出ない様子に愕然としていた。
もっとも、これ以上暴走による被害が拡大しなかったことに安堵もしていたのだが。

「あれが、貴方が解明も時間の問題だと仰った、使徒とエヴァだけがもつA.T.フィールドですわ。とはいえ、実際にどのようなものであるかは、我々NERVも正確に理解しているとは言い難いものですが」

リツコは時田に声をかけると、自嘲するように言った。

「あの壁を前にしては、JAは……いや、私たちの力は無力だ」
「無力なのは、貴方たちだけではなく、我々もですわ。もしかすると、それが私たち人類の信奉する科学の限界なのかもしれません」

リツコがさらに言うと、時田はゆっくりと頷いて、言葉を発した。

「おそらくそれが科学の限界かもしれません。貴女の言うように、使徒にはエヴァ以外の対抗手段は無いのでしょう」

そう言うと、時田はしばらく目を瞑り、沈思した後にこう言った。

「ですが、戦うことだけが科学ではありません」
「私は、それ以外の私たちの技術の利用法を考えましょう」
「エヴァが平和を守った後の、未来のために」

これから数年を経て、時田重工は医療・産業用ロボットの開発において、世界一のシェアを誇る大企業へと発展する。
その高い技術力は「科学の限界に挑戦する企業」と、巷間でささやかれるまでにあったのであった。





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