再び巡る時の中で

                  「共同戦線」

                                         Written by史燕





作戦部が提示した案は、やはりユニゾンだった。

(それしかないよなあ)

今行動を停止している使徒を叩ければよいのだが、現在はコアが露出しておらず、残念ながら同時に攻撃することができるほど零号機と弐号機の連携はできていなかった。
初号機と零号機ならあるいはと考えられたが、残念ながらシンジが回復するのを待つと結局五日目になってしまう。
それなら今後のことも考えるとレイとアスカの協調性を、と考えられたのだが、どうにもうまくいかない。
退院したシンジは二人の様子を見に来ていたが、先程から部屋に響くのは失敗のブザー音ばかり。

(まあ、僕とアスカもそうだったしなあ)

シンジとしては苦笑するしかなかった。
一緒に様子を見に来たミサトと加持も表情は険しい。
これでもう三日目なのだから、実はシンジとアスカよりも状況は悪いのかもしれない。

「シンジ君」

ミサトは小声でシンジに呼びかけた。

「最悪の場合、初号機にソニックグレイブ二本持って出撃してもらうから」

出来れば出撃させたくない、というのはミサト個人の感情もあるが、作戦部のそしてNERVの総意でもある。
シンジは「エヴァに自分の体は関係ありませんから」と言っているとはいえ、つい昨日まで左手が動かなかった人間を出撃させたいとは思わない。
よっぽどの狂気に取りつかれた人物の場合はその限りではないかもしれないが……。
少なくとも力が上手く入らないであろう左手で右手と同時にコアを攻撃して、上手くいく保証もなかったのだ。
だが、現実は非情である。
残念ながら、レイとアスカは一人で二体に同時攻撃ができないことは、シミュレーション訓練で発覚していた。
これに関しては前回のシンジもそうだったはずなのだが、今回は実際に、致命傷には至らないとはいえ、甲乙双方に同時に攻撃をして足止めした実績があるのだから、彼にお鉢が回ってくるのも仕方ないだろう。

「もしダメなら、シンジ君が回復するまでまたN2で時間稼ぎもアリかもしれないな」

発案者である加持までそんなことを言い出す始末だ。

――ブブーー―――

まるで二人の発言を肯定するかのように、再びブザーが鳴り響いた。

「ファースト、アンタいい加減に合わせなさいよ」
「……セカンドが早すぎる」
「はあ? アタシは完璧なのよ。カ・ン・ペ・キ。アンタがトロいのが悪いのよ」
「はーい、ストップストップ」

本日何度目かわからない言い合いに、ミサトが待ったをかけた。

「シンジ君、踊りはわかる?」
「えっ、ええ、なんとか」

なんとかどころではない。
前回と全く同じ振付を、シンジができないはずがないのだ。

「じゃあ、ちょっち踊ってみてくれる」
「はあ」

ミサトが提案したのは、シンジとアスカのユニゾンだった。
レイとの相性は以前からわかっているが、アスカとシンジの相性が気になる、というのが建前だが、シンジが合わせることが出来れば御の字、無理でもシンジとレイが組む可能性を示唆すればアスカも対抗意識を燃やすだろうという考えだ。
もちろんシンジもその意図はわかっていたが、おそらく合わせることができると考えていた。

「それじゃあいくわよ。ミュージック、スタート」

それは、見ている側が惚れ惚れするほど見事なユニゾンだった。

(へえ、なかなかやるじゃない。じゃあこれならどう)
(あっ、ペース上がった。まあ、まだついて行けるけど)

わざとアスカがペースを上げても、シンジが綺麗に合わせていく。
ミサトも加持も驚きで声がでなかった。

――ピンポンピンポーン――

ユニゾン訓練が始まって初めて、パーフェクトを示す効果音が流れた。

「すごいじゃないか、シンジ君」
「アスカも、やればできるじゃないの」
「いや、それほどでも」
「フン、サードはちゃんとついてこれたようね」

シンジは謙遜し、アスカは得意げだ。
実際は好き勝手にやるアスカにシンジが合わせたということで、技量はシンジの方が上と言えるのだが、そんなことは得意げなアスカは気づかない。
しかし、アスカとシンジが仲よさそうで面白くなさそうな人間が一人いる。
ミサトはしっかりその人物を捕まえて、こう言った。

「レイ、あなたもシンちゃんと踊ってみる」
「……碇君が良ければ」

こうしてシンジとレイのペアでもユニゾンが行われた。

(不思議。なんだか気持ちいい。まるで碇君と一つになれたみたい)
(綾波は合わせやすいな。ただ、アスカとのことを考えると少しペースを上げて、と)

結局、この二人のユニゾンもパーフェクトだった。

「これは、こっちの組み合わせとどっちかがいいのかしら」

そうミサトが思っていた時だった。

――バタン――

「碇君!!」

シンジがその場に突っ伏した。

「ごめんなさい、ちょっと、限界、みたいです」

そのままシンジは意識を失った。
急ぎリツコが呼ばれたが、診察によれば大したことないらしい。
ただ、ミサトに対しては「病み上がりの人間に激しい運動をさせるなんて何考えているのよ」とたいそうお怒りだったようだが。

その日の夜

「ねえ、ファースト」
「……なに、セカンド」
「アンタは今のサードを戦いには出したくないのよね」
「……ええ」
「私も、サードには借りがあるわ。もとはと言えばああなったのもアタシのせいだし」

珍しくアスカが非を認めたので、レイはいぶかしげな表情になった。

「そんな顔しなくたっていいでしょう。アタシだってこれでも反省しているのよ」
「アンタたちに酷いことを言ったりして、悪かったと思っているわ」
「……そう」
「たしかにアンタの言う通り今までのアタシはとても背中を預けられる存在じゃなかったわ。少なくとも、サードのようには動けなかった。自分のことしか考えてなかったのよ」
「……そう、それで」

レイはアスカの真意が読み取れなかった。

「つまり、アンタはサードを戦わせたくなくて、アタシも借りを返すためにアイツを休ませておきたい。ね、利害が一致するでしょ?」

借りを返すため、とはアスカらしいが、たしかにそう言うことなら、目的は「シンジを戦いに出さない」という点で一致する。

「……わかったわ、共同戦線と行きましょう」
「話が早くて助かるわ、それじゃ、これからアスカと呼びなさい。一応協力関係にあるんだし」
「……綾波レイ」
「えっ」
「……私の名前。そちらこそファーストのままでは不公平よ、アスカ」
「たしかにそうね、レイ。それじゃ猛特訓と行きましょう」

そして迎えた決戦の日。
一時はどうなる事かと思ったが、きちんとユニゾンができるようになっていたのでシンジは待機である。
ちゃんと着地まで完璧になったのだから、前回よりも完成度は高いと言える。

「いいわね、レイ。最初からA.T.フィールド全開。フル稼働最大戦速でいくわよ」
「……わかっているわ、アスカ。62秒で片付けましょう」
「それじゃあ行くわよ、外部電源パージ」

そこからは圧巻だった。
二機のエヴァは完璧に同じ動きをし、同じタイミングで引き金を引き、同じタイミングで斬撃を繰り出した。
最後に同時にコアを飛び蹴りで粉砕した後、綺麗に同じポーズで着地して見せるほどの余裕っぷりだ。
加持もミサトもつい数日前を思い出し、よくもまあここまで変わったものだとおかしくさえ思っていた。



その頃零号機と弐号機の間で、秘匿回線が繋がれていた。

「やったわね、レイ」
「……ええ、なんとかなったわ、アスカ」
「ところで、前から気になっていたんだけど、レイはサードのこと好きなの?」
「好き? よくわからない」
「はあ、じゃあサードといるとき、どんな気持ちになる」
「碇君と? ……暖かい、離れたくない、ずっと一緒にいたい」
「ふーん、じゃあ離れている時はどうなのよ」
「……寂しい、会いたい、何か満たされない」
「やっぱり恋なんじゃないの」
「コイ? 魚の?」
「あーもう、わかったわ。今度しっかり教えてあげる」

アスカはレイに恋愛についてしっかりと教育することを決意した。




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