再び巡る時の中で
「出撃」
Written by史燕
「冷却終了、ケイジ内全てドッキング位置」
「パイロットエントリープラグ内コクピット位置につきました」
「了解、エントリープラグ挿入」
「プラグ固定終了」
「第一次接続開始」
「エントリープラグ注水」
シンジはエヴァのエントリープラグにいた。現在は起動シーケンスの最中である。
(LCLか)
「シンジ君落ち着いていますね」
「覚悟を決めたってことじゃないかしら」
伊吹マヤと赤木リツコである。
事実、周りの様子と比べて、シンジは落ち着いていた。
かつて何十回と経験した工程である。
戦闘経験に関しても一番場数を踏んでいると言って間違いない。
ここまで今までの経験と比べても、違和感が感じられないのだから、慌てろという方が無茶である。
「リツコさん、この水、何とかなりませんか。呼吸はできるみたいなのでいいですけど……血の味がするんですけど」
「我慢しなさい、男の子でしょ」
「リツコさん、ミサトさんにあとでLCLの中に潜ってもらいたいんですけど、いいですか」
「ごめんなさいシンジ君、ジョッキ一杯で勘弁してもらっていいかしら。整備の邪魔になると困るのよ」
「わかりました、それで手を打ちましょう」
ミサトにとって苦行だが、自業自得なため同情しない。
作戦後、この公約はE計画担当者の責任でサードチルドレン立会いのもと、しっかりと実行されたそうだ。
そうこうしているうちに、シンクロが始まった。
「シンクロ率、出ました。うそ……」
「どうしたの、マヤ?」
「信じられません、シンクロ率99,89%。ハーモニクス値に至っては、誤差なしです」
「なんですって」
(あれ、母さんがいない。というより、中に誰もいないんだけど)
(でも、僕の魂を取り込もうともしないし……)
(そうか、君もそうなのだね)
どうやら、初号機もシンジと同じく逆行してきたらしい。
それも、どういうわけか碇ユイの魂を伴わず。
(う〜ん、母さんがいないとシンクロできないはずじゃないかな)
エヴァとのシンクロというのは、チルドレンの近親者(初号機は碇ユイ)の魂を媒介として、愛情を司る神経であるA10 神経とエヴァを接続することでシンクロを行い、操縦者の思う通りにエヴァを動かすというものである。
ゆえに、ユイの魂がいない今、シンクロができないとシンジが考えるのは当然である。
むしろ、魂の無いエヴァとシンクロを試みると、魂がエヴァに囚われてしまうのだ。
しかし、この疑問は即座に否定された。
(あれ、まるで初号機自体が僕の手足みたいだ。今までと違う)
図らずも、シンジはかつて碇ユイ博士が提唱した理論による、近親者の魂を介さないシンクロ――直接シンクロを行っていた。
これにより、ほぼイメージと誤差なくエヴァを動かすことができる。
その代償として、エヴァからのフィードバックも大きなものになってしまうことが問題なのだが、それには現時点でシンジを含めて誰も知るものはいなかった。
99,89%、これはエヴァと人との遺伝子情報の一致率と同じである。
勿論シンクロ率とこの一致率に深い相関性はないが、特に意識せずシンクロしようとしたとき、自然とこの数値に行きついたのだから、奇縁というものを感じずにはいられない。
そのころ、ケイジでは発進準備も終盤を迎えていた。
「5番ゲートスタンバイ」
「進路クリア、発進準備完了」
「碇司令、構いませんね?」
「もちろんだ、使徒を倒さぬ限り我々に未来はない」
「発進」
初号機は、第3使徒サキエルの前に射出された。
「シンジ君、歩くのよ」
(歩くって、そんな悠長なことでいいのかな)
(まあ、仕方ないのかも、何せ初めて動かしたんだから)
(とりあえず、なんとかいけそうだし、さっさと終わらせてもいいよね)
(それじゃあ行くよ)
初号機はプログレッシブナイフを右手に装備すると、サキエルに向かって駆け出した。
――キーン、バリン――
直前でサキエルのATフィールドに阻まれるが、一瞬で中和、ナイフをコアに突き刺した。
(いける!!)
そのまま、コアを破壊することに成功した。
「ミサトさん、なんか倒せたみたいなんですけど」
開始1分とかからず初号機の初陣は終了した。
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