再び巡る時の中で

               「救えなかった命」

                                         Written by史燕





その日は、朝からゲンドウがいなかった。
どうやら明け方から本部に詰めているらしい。
本部に行ってみるとどうやらゲンドウだけでなく、職員という職員が慌ただしくしていた。

(どうしたんだろう)

使徒襲来、ということはない。
次は参号機に乗り移った使徒のはずだ。
シンジは訓練に向かいながら、前回何があったのか考えていた。
今日は珍しくシンジだけが訓練を行うことになっている。

(そもそも、なんで参号機が来たんだっけ)

そう、たしかアメリカから輸送されてきたはずだ。
参号機がらみではトウジを傷つけた嫌な記憶しかない。
それでも、今は考えるのをやめるわけにはいかない。

訓練の間も、本部はどこかピリピリしていた。

「もう上がっていいわよ」
「もう、ですか」
「ええ、何か問題でもある?」

ミサトもリツコも、早く訓練を切り上げたいようだ。
実際特に問題はないのだが、どこか変だ。

そう思いながらブリーフィングを終えると、ある男に会った。
加持リョウジだ。
どうやらこれから休憩室に向かうらしい。

「あっ、加持さん」
「おや、シンジ君。今日は上がりかい?」
「ええ、ミサトさんたちが早く終わろうって。みなさんお忙しいみたいですけど、何かあったんですか?」
「うーん、そうだな」

加持は言いよどんでいた。
どうやらどこまでシンジに話していいものか、決めかねているようだ。

「これはシンジ君たちにもかかわりのない話じゃないから、特別に話すよ。ただ、この話を聞いて碇司令や葛城たちに詳しく話を聞くとか、無関係な人に話すとか、そういうことはしないでくれ。なにせ、誰もよくわかっていないんだから」
「えっと、それってどういうことですか?」
「……NERVアメリカ第二支部が消失した」

この時、シンジは全てを思い出していた。
なぜ本部がこんなに慌ただしいのか。
どうして参号機がやってくることになるか。

(僕は、知っていたはずなのに)



シンジの心に広がるのは、壮絶な虚無感。
今まで上手くやってきたつもりだった。
使徒との戦いでは前回よりも被害は少ない。

それでも、いやだからこそ。

――僕は、救えなかったんだ。

前回から変えることができなかったという事実は、シンジの心に重くのしかかっていた。

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