再び巡る時の中で
「最悪の覚悟」
Written by史燕
エヴァンゲリオン参号機がNERV本部へ移管されることになり、ゲンドウたちは頭を抱えていた。
「それで、パイロットはどうするんだね?」
「現在候補者の中から選定していますが、どの候補者も五十歩百歩でして、実際にコアの情報を確認してみないことには何とも言えません」
冬月の問いに、リツコが答える。
「ではテストは、既存のチルドレンから選出するということで構わないかね?」
「それしかないかと」
「……問題ない」
会議は終わったが、問題は片付いていない。
なんとかして三人のチルドレンのうちだれかをテストに回さなければならないが、誰を選出するか。
エヴァはもともと専用機である。
しかしながら参号機のコアはそもそも未調整であり、誰でも使えるというわけではさすがにないが、候補者であればチルドレンになることは可能なほどのものだ。
それ故にすでに自身のエヴァを持っているシンジ・レイ・アスカの誰に頼むべきか、リツコは頭を悩ませていた。
次の日、訓練後にシンジはリツコの部屋を訪れていた。
「それで、話って何ですか?」
シンジは挨拶もそこそこにリツコに用件を尋ねた。
「シンジ君、あなた、参号機のテストに参加してもらえないかしら? もちろん断っても構わないのだけど」
参号機と聞いて、シンジは前回のトウジのことを思い出した。
アメリカ第二支部の事故以来、そろそろ相対することになるだろうと思っていたことだ。
もっとも、前回と異なりこうしてテストパイロットの話が自分に来たのは驚いたが。
「えっと、正規のパイロットはいないんですか?」
トウジのことを確認しようと思い、シンジは尋ねてみる。
「ええ、まだ見つかっていないようなの。でもこのまま機体を遊ばせておくわけにもいかないから、ひとまずテストで起動してみて、おかしいところがないか確認してみようと考えているのよ」
リツコの答えは明瞭だった。
それもそのはずで、まだパイロットを決めあぐねているのだから当然である。
「僕が断ったら、アスカか綾波のどちらかが乗るんですよね?」
「ええ、そうよ。別にテストしてみるだけだからだれでも構わないもの」
シンジの確認にリツコは答える。
使徒のことを知らないのだから当然と言える。
単純にシンクロ率の高さから最初にシンジに声をかけたのだから、別に残る二人に頼んでも問題はないのだ。
さらに言えば直接シンクロが他のエヴァでもデータが取れれば研究に使えるかもしれないという程度である。
「初めて人が乗るエヴァのテストパイロットですか。少し不安ですが乗ってみます」
(リツコさんは使徒のことを知らないだろうし、綾波たちを犠牲にするくらいなら……)
事前に何とかする手も浮かばない以上、整備に気を付けてもらう以外に対抗策はない。
(まあ、トウジや綾波たちを乗せることを思えば)
「もちろん、何か変なことがあればすぐに実験を停止してかまいませんよね?」
シンジはさらに確認するようにして言った。
「ええ、その時は遠慮なく言ってちょうだい」
(これなら最悪自爆すれば……)
こうして、シンジは最悪の可能性を想定したうえで、参号機のテストパイロットになることを了承したのだった。
誰も喜ばない覚悟を決めて。
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