再び巡る時の中で

                         「安静」

                                         Written by史燕






シンジが目を覚ましたのは、使徒と戦ってから丸1日が経ってからだった。
ほどなくして、病室には葛城ミサトと赤木リツコがやってきた。

「シンジ君、どこか変に感じるところはない?」
「少し気怠いですが、特には」
「そう」

まずはリツコが体調のことを確認した。
シンジはそれに正直に答える。

「あの、使徒はどうなりましたか?」

シンジは当事者であったものの、状況を把握しているわけではない。
だが、それに対するミサトの答えは、ある意味予想通りだった。

「わからないわ、全然ね。NERVが誇る頭脳の赤木博士が手も足も出ないんだから」

チラリと隣のリツコに視線を送る。

「しょうがないでしょう? 使徒がエヴァを乗っ取る、挙句の果てに目立った外傷もないのに勝手に自爆するなんて、誰に説明ができるのよ」
「はいはい、悪うございました」

そういうミサトは全く悪びれた様子はない。
実のところ、当事者であるシンジも無我夢中であったために何があったのか把握できないでいた。
初号機と同じように直接シンクロを行おうとして、何かに阻害された。
その後しばらく意識が繋がらず、意識が繋がった後はコアと、それを包む何かが目の前にあった。直感的にそれが邪魔なナニカであると理解したが、それがナニかまではわからない。

(たぶん、使徒、なんだろうけど……)

確証などどこにはありはしない。
そもそも素手で倒せる使徒なぞいるのか。
あの世界はいったいどこだったのか。
それらの一切がシンジにはわからなかった。
結局これ以上はいくら考えても参号機の暴走と使徒の殲滅については建設的な意見は出ないということで話はまとまった。

「そういうわけだから、ごめんね」
「とりあえず、シンジ君はしばらく安静にしてもらうわ。なにせ使徒に取り込まれたエヴァに乗っていたんですもの。どんな影響があるかわからないわ」
「そう、ですか……」

絶対安静、それそのものは納得がいく話だ。
おそらく何もないとはいえ、必ず影響がないとは言い切れないのだから。

もっともあと数日で使徒がやってくることを知っているシンジとしては、それほど実態のある話ではないと思った。
ミサトの次の言葉を聞くまでは。

「あ、訓練もだけど、次の出撃も禁止だから」
「えっ、どうしてですか!?」

シンジにとっては到底容認できる話ではない。

「どうしても何も、絶対安静だからよ」

ミサトのセリフを、リツコが引き継ぐ。

「碇シンジ君、あなたは先日の使徒戦やそれまでの戦いで精神的にも肉体的も大きく負担を受けているわ。貴方自身が気づいていなくてもね。だから、絶対安静、これはE計画責任者としても、医学的な見地からも同じ評価よ」
「何より、碇司令直々の命令よ。シンちゃん、わかってちょうだい」

最後に、組織としての判断であることをミサトが告げた。

「父さんが」
「そうよ、シンジ君」

二人はそのまま退室していき、シンジが一人残された。

次の使徒の強さはよく知っている。
たぶん今の自分でも勝てないかもしれない。それこそ暴走でもしない限り。
だが、それを余人に言うことはできない。

(二人が傷つかないうちに命令が解除されれば)

そう願うほかなかった。

「おかしいな、あれほど嫌だったはずなのに、いざエヴァに乗れないとなるとこんなに苦しいなんて」

シンジの独白は、誰に聞かれることなく暗闇に消えていった。


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