再び巡る時の中で

                         「男の戦い」

                                         Written by史燕





シンジはモニター越しに使徒とレイ・アスカ二人の戦いを見ていた。
握りしめた両手からは今にも血が流れそうで、口元をきゅっと引き結んだ鬼のような形相だった。
何かあった時のためにと、プラグスーツに着替えはしたが、病室から出ることすらできない。
なにせ、ご丁寧に電子ロックまでかけられているのだ。
逃げ出そうにも逃げ出せない。

そんな開かずの扉が、ある男の手であっさりとどこか気の抜けたような音をさせて開いた。

「よっ、シンジ君」

加持リョウジだ。

「加持さん、どうしてここに?」

シンジは訝し気に尋ねる。

「なに、城の中の王子様をそそのかす悪い魔法使いをやりにね」

そう、おちゃらけて言うが、眼差しは真剣だった。

「女の子にばっかりいいかっこさせるわけにはいかないさ」
「行くんだろ? シンジ君、お姫様のもとへ」
「ありがとうございます、加持さん」
「その代わり、葛城やりっちゃんへの言い訳は手伝ってくれよ」
「ええ、わかりましたよ」

こうして二人は、病室を抜け出して初号機のケージへと向かった。



零号機が沈黙した瞬間、使徒の真下から射出された物体があった。

「なに? どうしたの?」
「しょ、初号機です」

発令所が把握していないそれは、射出時の勢いそのままに、ナイフを片手に使徒に襲い掛かった。

シンジは戦闘の経緯は初号機の中でも聞いていた。だからこそ、レイが決死の覚悟でダメージを与えた今こそが、最大の好機だと考えていた。

「こいつーっ」

シンジは使徒に馬乗りになると、右手のナイフを使徒の左腕に突き刺した。

――鮮血がほとばしる。

使徒はA.T.フィールドを張るが、この好機を逃すまいとするシンジと初号機のシンクロ率は100%を越えようかというところ。強力な初号機のA.T.フィールドで中和された現状では抗うこともできない。

使徒は苦し紛れに、初号機の目の前で光線を炸裂させ、拘束から逃れる。

初号機に少なくないダメージを与えることに成功するが、その程度ではシンジは止まらない。
初号機の右脇腹から血が流れる。
それと連動してエントリ−プラグのシンジの方も出血をする。
それでもシンジは止まらない。

ようやくできた距離もあっという間に詰め、使徒を兵装ビルに蹴り飛ばす。
今度はビルに押し付けたまま、使徒の顔面部を左手で握りつぶす。
その後、右手のナフで何度も何度も使徒のコアに斬りつける。
使徒は残された右腕で初号機の左腕を斬り飛ばし、拘束から逃れようとするが、今度は身体ごと体重をかけられ初号機に押さえつけられる。
もっとも、初号機の中ではシンジ自身の各所にもダメージがあり、左手に至ってはLCLの中できれいに切断されていたが。

しかしそれでもシンジには関係ない。
自身の負傷など気づいていないかのように、執拗にコアへの攻撃を繰り返す。

「このっ、このっ、このおっ」

何度目の攻撃だろうか、ナイフがコアを粉々に砕いたのは。

「使徒、活動を停止」
「パターン青、消滅しました」

それまでただ初号機の戦いを見るだけで固まっていた発令所が、ようやく再起動した瞬間だった。



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