再び巡る時の中で

                       「戦略自衛隊」

                                         Written by史燕





「Bダナン型防壁を展開。第666プロテクトにより、以後62時間は外部からのMAGIに対する侵攻は不可能です」


NERV本部とゼーレとの前哨戦が始まっていた。
MAGIの接収は本部そのもののそれと同じ、その戦いがひとまず終息したことを、シンジは初号機の中で知った。
現在は出撃に備えてパイロットは全員エントリープラグで待機していた。

(次は戦自が攻めてくる)

前回もそうであったし、司令部の全員もそのことは覚悟していた。
事実、MAGIを用いた戦いが終焉してしばらくして、第三新東京市のレーダーサイトなどの各種施設が戦自によって沈黙させられたという報告が入った。
現在は必要最低限の人員しか残されていないとはいえ、職員の犠牲者は前回同様相当のものになるかと思われた。

しかし、次の報告は、司令部にとって我が耳を疑うようなものだった。

「戦略自衛隊地上部隊、ジオフロントの出入口を確保して以降、動く様子はありません」
「なんですって」

理由は不明だが、好都合ではある。
少なくとも機甲部隊をエヴァで迎撃する必要や施設内での肉弾戦を行うことがこれでなくなったのだ。

訝しむ発令所の面々をよそに、突如緊急回線が開かれた。

「NERV本部のみなさま、こちらは戦略自衛隊NERV本部侵攻作戦の担当をすることになりました長月一佐と申します」
「それで、その一佐さんがどうしたのかしら? 生憎と降伏勧告なら間に合ってるわよ」

侵攻側の指揮官の突然の通信に対し、防衛作戦を指揮するミサトが代表して答える。
その回答の仕方は少々挑発的だったが。

「葛城三佐ですね。ご高名はかねがね。用件をお伝えしますと当方にこれ以上侵攻する意思はありません」
「それは、どういうことかしら?」
「……つまり、日本政府とその指揮下の戦略自衛隊は、この戦いを静観するってことさ」

そう、通信の向こうから横やりを入れたのは、本来ならば発令所に居なければならない――前回は生存すらしていなかった――人物、加持リョウジである。

「碇司令、内閣と防衛省はちゃんと提案に乗ってくれましたよ」
「碇司令、どういうことですか!?」

加持の発言を受け、ミサトは食い気味にゲンドウに問う。
ミサトだけでなく、他のメンバーもゲンドウの発言を待った。
これに対してゲンドウは

「問題ない」

いつものように短くそれを口にしただけだった。
結局加持が「わかりました。代わりに説明しますよ」と言って、日本国政府への今後の優先的な技術供与の代わりに、今回の一件の静観とゼーレの指示に対する形だけの協力及び司令のリークを頼んだのだという。

A−801によってNERV本部が接収されるのは日本国であり、実際に接収するのは武力制圧である以上動くのは戦略自衛隊である。
どちらにしても、日本政府と話をつけてしまえば終わりなのだ。

「さて、残るはエヴァだけとなったか」

そうつぶやいた冬月に合わせたかのように、機能を復活させたレーダーサイトは不審な飛行物体の接近を知らせたのだった。





次へ

前へ

書斎に戻る

トップページに戻る