再び巡る時の中で
「NERVでの生活」
Written by史燕
「父さん、これ今日のお弁当」
「うむ」
「それじゃ、これから訓練だから」
「ああ、がんばれ」
「うん」
あれから一週間が過ぎ、シンジはNERVでの生活にもだいぶ慣れてきた。
その間に出来た日課の一つがこの弁当である。
最初は受け取るのを渋っていたゲンドウだが、家事スキルは一級のシンジが持ってくる弁当は当然うまい。
今となっては横から箸を伸ばす冬月との攻防が、食堂で見かけられるらしい。
「碇、卵焼きを一つくれんか」
「断る」
「何もタダでとは言わん、ほら、このてんぷらと交換しよう」
「ダメなものはダメだ。シンジの卵焼きには代えられん」
「くっ、このどけちめ」
「お前にもこないだ一切れやっただろう」
「だから欲しいのだ、まったくシンジ君もなんでまたこんな奴のためにわざわざ」
泣く子も黙る司令・副司令が揃って卵焼きの取り合いをしている姿は、もはや呆れを通り越して名物となっている。
一方、シンジの方はシンクロテスト・体術訓練(本人が動ける方がエヴァでもイメージが作りやすいためだ)という今日の日程が終わり、レイの病室を訪れていた。
シンジがこの一週間で訪ねなかった日はない。
(綾波、そろそろ退院だよな)
そんなことを考えながらシンジは廊下を歩いている。
一方レイも
(……そろそろ碇君が来るはず)
(……なに、この気持ち)
(……そう、私、楽しみなのね。碇君と会えるのが)
と、心待ちにしているようだ。
――ウィーーン――
待ち人来る、シンジが入室したようだ。
「こんにちは、綾波」
「こんにちは」
シンジの地道な努力のすえ、綾波も挨拶は交わしてくれるようになった。
「――それでね、ミサトさんったらリツコさんにタジタジで」
「……そう」
「慌てて日向さんがフォローしたんだけどますます火に油を注いじゃって」
「……そうなの」
レイの病室では二人で別のことをしているか、シンジが一方的に話す内容にレイが相槌を打つだけである。
しかし、決して話を聞いていないわけではなく、以前した話と関連していると、よく話を理解していることがわかる。
(まだ、どういう風に感情を表せばいいか知らないんだよね)
というのがシンジの理解である。
どうやらこれはあながち間違ってはいないようだ。
「もう時間だね。それじゃあ僕はこれで」
「……待って」
「?」
「……私、明日退院許可が下りるの。だから――」
「わかった、明日手伝いに来るよ。いつもの時間でいい?」
「ええ、構わないわ」
そうしてシンジは病室を後にした。
(……碇君、明日手伝ってくれるって)
(……そう、私、うれしいのね)
(……碇君、碇司令の息子)
(……碇君、毎日私を気にかけてくれる人)
(……この気持ち何? 不思議な感じ、でも、嫌じゃない)
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