零と壱の物語〜Dパート〜

                Written by史燕


チクタク チクタク 時を刻む
チクタク チクタク 鼓動と共に

碇シンジは、今日も変わらぬ日常を送っていた。
朝起きて、朝食をとり、学校に行き、授業を受け、帰宅する。
友人たちと世間話をして、最近彼女ができた親友をからかい、ゲームセンターで時間を潰す。
一人で食べる夕食にもすっかり慣れた。
掃除、洗濯、炊事に裁縫。
彼自身、男子中学生にしては出来過ぎた生活だと思う。
勉強で詰まるほど頭は悪くなく、運動でつまずくほど鈍くはなく、交友関係でしくじるほど間抜けではない。
残念ながら、他の男性陣がするような色恋がどうとか、流行がどうとか、そんな話には興味が持てなかったけれど。

相変わらず手に馴染む懐中時計。
おそらくそこまで高価ではない、おしゃれでもない。
文字盤が漢数字であること、蓋の裏に二人の名前が刻まれていること。
それ以外に、特徴は無い。
それさえも、特別ではない。

それでも、この時計を手放す気にはならなかった。
それでも、この時計を見ていると心が安らいだ。

相も変わらず聞こえる少女の声。
しかし不思議と嫌ではなかった。
その声の主を、ひと目見てみたい。
どんな女性なのか、どんな話を聞かせてくれるのか。

少年は知るよしもない、少女の願いを。
少年は知るよしもない、彼がかつてどれほどの痛みを覚えたのかを。

忘れ去られた記憶の果てで、彼は再び目覚めようとしている。
彼女が望まない方向で、彼女の意図せぬ方向で。
果たしてそれは悪いことなのか、少年にとって、そして少女にとって。
誰一人として知りうるべくもないその事実。
それをさておき歯車は回る。

spini anim praya 儚いときの中で
spini anim praya 優しいまどろみの中で



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